石井光太 『地を這う祈り』 (徳間書店,2010年) よりの引用――
この本で、いちばん好きなページを引用させていただきます
ああいった場所のああいった人たちの本当のすがた…
そういったものが本当にあるのかどうかは知りませんけど
ボク自身が そのようなものだと感得するすがたが
ここには、とってもよく表されているように思いました
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神棚の下で眠る
インドには、数えられるだけで三億以上の神様がいると言われている。
貧しい人々は、路上で寝起きしながらも、そうした神を信仰している。町の木や塀に神棚をつくり、思い思いの神様を祀る。食費を節約してでも、線香を用意し、朝晩は祈りを欠かさない。
「今日も一日、お父さんが仕事をして帰ってきますように」
「私が仕事にでている間、妻と娘がトラブルに巻き込まれませんように」
「いつの日か、家を借りて、家族が仲良く暮らせますように」
そんなことを願うのである。
ある年の夏、ムンバイでガネーシャという象の頭を持った神の祭りがあった。数日にわたって、町の人々は巨大な象をトラックの荷台に乗せて町を行進する。路上生活者たちも列に加わる。知っている人も、知らない人も握手を交わし、お互いの幸運を祈る。
祭りの最終日、私は知り合いの路上生活をする親子を町を歩き、夜になって寝場所にもどってきた。すると、壁に掛けてあったガネーシャ神を祀った棚に、甘いお菓子が袋に入ってぶら下がっていた。
私が「これは?」と尋ねると、父親が答えた。
「町の人が、わしらにくれたんだろ。祭だからな」
それを聞いた時、この町にはたしかに神様がいるのかもしれない、と思った。
ペーパーバック版184頁; ルビ省略
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この本は フォトエッセイ集でして…
発展途上国の物乞い、貧者たちの あられもない姿がいっぱい収められています
インドで多少なりと慣れているボクでも (あるいは、そんなボクだからこそ)
直視するのがとってもつらくなる写真がおおいです
ぜひぜひ読んでほしいのですが
慣れない方、怖いなって思う方は まずテクストのみの
石井光太 『物乞う仏陀』 からお手にとるのをおすすめします